うつ予防

うつ予防のため「運動」

この記事でわかること
• 日本の職場で「うつ」がどれくらい起きているか(数字で把握)
• うつが企業にもたらす損失(休職だけではない)
• うつ予防に効果が大きい施策トップ3(できるだけ高いエビデンスで紹介)

結論

うつ予防は、細かい施策を増やすよりも、次の3つを“太く”整える方が効率的です。
1. 運動・身体活動を増やす(歩く+筋トレ)
2. 睡眠を整える(時間と質)
3. ストレス対処+早めに相談できる導線(抱え込ませない)
この3本柱は、研究の量も多く、効果が一貫して出やすい領域。

日本の職場でいま何が起きているか

うつは「まれ」ではない

日本の調査でも、大うつ病性障害(うつ病)は12カ月有病率が約2〜3%前後、生涯有病率が約6%前後と推定されています。つまり、単純化すると1年のどこかで30〜50人に1人程度は、うつ病に該当し得るという規模感です。

働く人の多くが「強いストレス」を抱えている

厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」では、仕事に関する強い不安・悩み・ストレスがあると答えた労働者の割合が 82.2%(令和4年調査)と報告されています。「まだ病名がついていない層」も含めて、職場では多くの方がストレスを感じています。

経済的損失は“兆円”規模

政府の試算を引用した報道では、自殺やうつ病などによる損失が年間2.7兆円に上るとされています。さらに、近年の研究では、メンタル不調による損失は「休むこと」以上に、出社しているのに本来の力が出ない状態(プレゼンティーズム)が大きいことが示されています。日本の推計では、メンタル不調による生産性損失が**プレゼンティーズム約467億ドル+欠勤約18.5億ドル(合計でGDPの約1.1%)**と報告されています。

うつが企業にもたらす「多面的な損失」

うつは「休職者が出るかどうか」だけではありません。現場で起きやすいのは次の連鎖です。
• 集中力・判断力が落ちる → ミスや手戻りが増える
• コミュニケーションが減る → チームの連携が鈍る
• 新人・若手の離職が増える → 育成コストが膨らむ
• 周囲も疲れる → “連鎖的に”調子を崩しやすくなる
だから健康経営は、治療の話だけでなく、「不調になりにくい土台」づくり(一次予防)が重要になります。

うつ予防に効果が大きい施策トップ3

第1位:運動(運動習慣)

運動は「気分転換に良い」だけではなく、うつ病の発症リスク自体を下げるデータが多いのが強みです。
• 49件・約26.7万人の前向き研究をまとめたメタ分析では、身体活動が多い人は少ない人に比べて、うつ病の発症リスクが17%低いと報告されています。
• 「歩数」で見たメタ分析では、7,000歩/日以上の人は、7,000歩未満の人に比べてうつ病リスクが31%低い。さらに、1,000歩/日増えるごとにリスクが9%下がる(RR 0.91)と報告されています。
• 「すでにうつ症状がある人」に対しても、運動は効果が確認されています。大規模ネットワークメタ分析では、うつ症状の改善に対して中程度の効果が示されています。

今日からできる“最小構成”

• 歩く:まずは「今より+1,000歩」
• 筋トレ:週2回(自重でもOK)
• 続け方:強度よりもまず“習慣化”
WHOのガイドラインでも、成人は週150〜300分の中強度運動(または同等量)+筋トレ週2回以上が推奨されています。

健康経営としてのポイント(会社側)

• 「運動してください」ではなく、運動が起きる環境をつくる
• 階段を使いやすくする/立ち会議/歩く1on1
• 歩数イベント(競争より“参加しやすさ”重視)

第2位:睡眠(睡眠時間+睡眠の質)

なぜ睡眠が効くのか

睡眠は「うつの症状」になりやすいだけでなく、睡眠の乱れそのものが、うつのリスク要因として強く示されています。
• 不眠がある人は、ない人に比べてうつ病の発症リスクが約2倍になるというメタ分析の報告。

• また、睡眠を整えるプログラム(形式はいろいろあります)をまとめた研究では、睡眠の改善は効果が大きく、抑うつ症状も小〜中程度改善と報告されています。
※ここで大切なのは「方法論」よりも、睡眠が“うつ予防の土台”であるという点です。

今日からできる“睡眠の整え方”

難しいことをやらなくても、まずはこの3つが効きやすいです。
• 起きる時間を固定(休日もズレを小さく)
• 寝る直前の刺激を減らす(スマホ・仕事・強い光)
• 日中に体を動かす(10〜15分歩くだけでも寝つきに影響しやすい)

健康経営としてのポイント(会社側)

• 睡眠は個人努力だけだと限界があるので、「睡眠を削らせない働き方」が重要になります。
• 長時間労働の是正
• 夜遅い会議・連絡の常態化を防ぐ

第3位:ストレス対処+「早めに相談できる導線」

職場で行う“予防的な介入”(ストレス対処スキルの習得、セルフケア教育、支援プログラム等)をまとめたメタ分析では、抑うつ症状に対して小〜中程度の改善が報告されています。
• ストレス対処スキルを扱うプログラム群で中程度の効果あり。それ以外のプログラムでも中程度の効果あり。
※研究上は“認知行動療法の要素”を含むものも多いですが、現場の運用としては、「ストレスのサインに気づく」「対処の引き出しを増やす」「相談先を明確にする」という設計に落とせば十分に実装可能です。

今日からできるストレス対処(一般向け)

• 自分の不調サインを言語化(眠れない・食欲低下・涙もろい・イライラ等)
• 小さな回復習慣を固定(散歩、入浴、軽い筋トレ、深呼吸)
• “相談のハードル”を下げる(誰に、どこに、どう連絡するかを決めておく)

健康経営としてのポイント(会社側)

• 相談窓口を作るだけでなく、使われる導線にする
• 産業医・保健師・社外EAPの案内を“見つけやすい場所”に
• 上司向けに「声かけ例」を共有
• 高ストレス者や不調サインが強い人は、早めに専門職へつなぐ(現場の支援者が抱え込まない)

よくある「うつ予防に良いと言われる施策」はどう考える?

もちろん、次のような取り組みも無意味ではありません。
• 食事改善、サプリ、マッサージ、アロマ、レジャー、社内イベント など
ただ、健康経営として「まず何からやるべきか」という優先順位では、運動・睡眠・ストレス対処(相談導線)の方が、研究の量と一貫性が強く、効果も見込みやすいのが現状です。

“足し算”でいろいろ増やすより、まずは土台を整える。これが、うつ予防の最短ルートになりやすいです。

 まとめ:うつ予防のために効果の大きい3本柱

会社が押さえる3本柱

• 運動:歩く+筋トレを“仕組み化”
• 睡眠:削らせない働き方+生活リズム支援
• ストレス:セルフケア教育+相談導線の整備

個人が押さえる3本柱

• 毎日少しでも動く(まずは+1,000歩)
• 睡眠を守る(不眠はうつリスクを上げやすい)
• 抱え込まず相談する(早いほど回復しやすい)

参考文献

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