メンタルヘルスと乳がん

メンタルヘルスと乳がん

メンタルヘルス乳がんの診断や治療にともなって精神面に様々な影響があります。運動は乳がん経験者のメンタルヘルス改善に効果的で、世界中でポジティブな研究結果が数多く報告されています。世界中の研究を集めて解析した論文によると、運動でメンタルヘルスが改善する可能性はとても高く、アメリカスポーツ医学会のガイドラインは、信頼性の高さを表すエビデンスレベルをStrong(強固なエビデンス)としています(1)。

ストレスと乳がん再発

ストレスが乳がん再発を引き起こすかは多くの方の気になるトピックです。現時点では、ストレスの少ない生活をすることで再発リスクが減少するかについては、研究が不足しており、明確な結論が出ていません(2)。乳がん再発には、ストレス以外の要因(例:肥満、たばこ、遺伝など)も複雑に関連するため、ストレスの影響のみを抽出することが難しいという背景もあります。

運動と生活の質

運動は乳がん経験者の生活の質(QoL: Quality of Life)を改善させることが多くの研究で報告されています。有酸素運動と筋トレのどちらも、生活の質改善に効果的で、有酸素運動のみの場合は1回あたり30~60分のウォーキングなどの運動を週に2~3回おこなうと効果的です。筋トレのみの場合は30~60分程度の筋トレを週に2セットおこなうと効果的です。日本人乳がん経験者を対象とした研究では、運動で特に回復するQoLとして、体力的な悩み、体型に関する悩み、職場復帰に関する悩みが改善しやすいことが報告されています(3)。

運動と不安

運動は乳がん診断後の不安を和らげることが報告されており、世界中で研究結果が一致しています。信頼性の高さを表すレベルはとても高く、約3か月運動を継続すると不安の軽減が期待できます(1)。不安を和らげるための有酸素運動の目安としては、1回あたり30~60分のウォーキングなどの有酸素運動を週に3回おこなうと効果的です。筋トレと不安の改善についてはまだ研究数が不足しており、はっきりとしたことは分かっていません。また、有酸素運動と筋トレを組み合わせると不安改善に効果的と言われていますので、時間に余裕があれば有酸素運動と筋トレの両方がおこなえると理想的です(有酸素運動と筋トレを組み合わせると、不安改善に加えて、疲れやすさ改善や体力向上が期待できます)。自宅で1人の運動も不安改善に効果的ですが、専門トレーナーにフォームチェックなどをしてもらうことで不安がより和らぐことも報告されています(1)。

運動とうつ

運動は乳がん治療時、治療後のうつを和らげる効果があります。有酸素運動でうつ予防を目指す場合は、1回あたり30~60分のウォーキングなどの有酸素運動を週に3回おこなうと効果的です。筋トレのみの場合は有効性が実証されておらず、うつ予防を一番の目的とする場合は有酸素運動を優先的におこなうことがおすすめです。有酸素運動と筋トレの組み合わせもうつ改善に効果的と言われていますので、うつ改善と筋肉量を増やしたい場合は、ウォーキングと筋トレの両方に取り組めると効果が期待できます。また、うつを和らげるためには運動量が多い方がおすすめです。1週間あたり90分の運動群と180分以下の運動群で比較すると、運動量が多い群の方がうつ症状の軽減に効果的と、アメリカスポーツ医学会のガイドラインで報告されています(1)。

参考文献

(1)Campbellら, Med Sci Sports Exerc, 2019.
(2)日本乳癌学会, 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版, 2019.
(3)奥松ら, 第30回日本乳癌学会, 2022.

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